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「藁(わら)の上からの養子」とは、他人の子を実子として出生届けをして育てることをいいます。このようにすることによって、戸籍上は実子としての外観を備えることとなるため、養子であることを隠す方法として古くから行なわれてきたようです。
 
ちなみに、「藁」とは産褥(さんじょく:お産をする寝床)にしくワラから転じて産褥の意味で、産褥から出て子の生まれたことを世間に公表する前に、この子をもらい受けるということです。
 
 
このように他人の子を自己の嫡出子として出生届をすることは、虚偽の届出であり無効です。実子としての届出はもちろんのこと、養子としての届出としても無効なのです。つまり、この外観上は「実子」、実質は「養子」の親子は、法律的には他人であるというこになります。
 
 
ところで、「子」は相続人です(民法887条1項)。子には、実子(生理的な血のつながりがある子)と養子(法律上の子)があります。そうすると、「藁(わら)の上からの養子」は実子でも養子でもありませんから、相続人になれません。
 
ところが、「藁(わら)の上からの養子」が長年、実子と思って暮らしてきたらどうでしょうか。自分は実子であると信じていたところ、親が死んで相続をする段階になってはじめて他の親族から「親子関係はない(相続できない)」と申し立てられたら?
 
こんな事件が実際あり、最高裁判所第二小法廷(平成18年07月07日)で判決が下されました。判決の内容は簡略化するとこうです
 
・他の親族側の主張が権利の濫用にあたる可能性がある。
・権利濫用にあたるかどうか審理しなおすため高等裁判所に差し戻す。
 
権利濫用(民法1条3項)とは、主張する権利は外形上は正当な権利行使のように見えても、具体的実質的に見ると権利の社会性に反するような場合には、権利行使を認めないというものです。
 
本件では、たしかに、「藁(わら)の上からの養子」と被相続人との間には「親子関係はない」という主張は正当である。しかし、本件のように社会的事実とし て長年親子として暮らしてきたという実態を鑑みると、いまさらこの主張を認めることは著しく不当であるという判断だと思います。
 
なお、この判決では、(1)生活実態があった期間の長さ、(2)親子関係が否定されて本人らが受ける精神的苦痛・経済的不利益、(3)関係不存在を申し立てた側の経緯や動機、などを基準に権利の濫用にあたる場合か否かの判断をすべきとの一般的基準を示しています。
 
本件が差し戻された高等裁判所の審理でも、他の親族の主張が「権利の濫用にあたる」と判断されれば、本件「藁(わら)の上からの養子」は、本当は相続権が 無いのに、結果的に相続できることになります。ある意味、「無いのに有る」みたいな玉虫色な結論かもしれませんが、具体的妥当性を探っていくとどうしても 法律の原理原則だけでは対処できない場合があり、解釈の妙といったところでしょうか。
 
 
最後に、気をつけなければならないのは、あくまでも原則として「藁(わら)の上からの養子」には相続権がないということです。本件は例外的な場合といえるでしょう。
 
 
 
◆関連判例
・最高裁判例 平成18年07月07日 親子関係不存在確認請求事件
配偶者の連れ子には相続権がありません。なぜなら、配偶者の連れ子は、「被相続人の子」ではないからです。(民法887条1項)
 
もっとも、配偶者の連れ子と養子縁組すれば、法定血族関係が発生し、実子と同じ扱いになりますので(民法809条1項)、この場合は、「被相続人の子」ですから相続権を有することになります。
 
つまり、連れ子に相続人として遺産を相続させたいのなら養子縁組をする必要があり、相続させたくないのなら養子縁組をしないことです。
推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)は、相続放棄をしない限り、原則として遺産を相続します。そして、子は推定相続人ですから、法定相続分にしたがって当然遺産を相続するのが原則です。
 
しかし、何らかの理由で子に財産を相続させたくない場合には、つぎの方法をとることが出来ます。
 
1、財産を遺贈または死因贈与する
遺贈、死因贈与とは、ともにいわゆる贈与ですが、ここではこれらの内容について深く触れません。全財産を他人に贈与してしまえば、そもそも相続する財産が 無くなってしまいますので、子に遺産を相続させないようにできるのです。もっとも、あとでふれますが、この方法では「遺留分」の限度で子は相続財産を請求 できます。
 
2、遺言で相続分を指定する
子が複数いる場合や、子の他に配偶者などの相続人がいる場合、遺言で相続分の指定をすることができます(民法902条)。この方法で、遺産を相続させたく ない息子の相続分をゼロと指定するのです。しかし、この方法でも「遺留分」を害することはできませんから、子は遺留分を請求できることになります。
 
3、相続人を排除する
「排除」という制度は、被相続人の意思によって相続権を喪失させる制度です(民法892?893条)。つまり、遺産を相続させたくない息子の相続権を奪ってしまうのです。
この方法は、相続人の相続権を一方的に奪ってしまう強力なものですから、これが認められるには以下のような条件が必要です。
 
(1)推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき
(2)家庭裁判所の審査
 
これら(1)(2)の要件が満たせば、完全に息子に遺産を相続させないようにできるのです。なお、「著しい非行」とは、すくなくとも被相続人の財産・精神などに対しある程度の害を及ぼすものである必要があり、単に犯罪を犯したという程度では認められません。
 
 
ちなみに、「欠格」という制度があり、相続人が被相続人を殺害したり、他の相続人を殺害したなど悪質な場合には、法律上当然に相続人となることができません(民法891条)。891条によると、つぎの5つの場合が欠格者になります。
 
・故意に被相続人または相続について先順位もしくは同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、刑に処せられた者。
・被相続人が殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者。
・詐欺または強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、またはその取消・変更をすることを妨げた者。
・詐欺または強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、またはその取消・変更をさせた者。
・相続に関する被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した者。
 
 
※遺留分とは?
一定の相続人のために法律上必ず留保されなければならない遺産の一定割合のこと(民法1028条)。つまり、この遺留分については相続人の権利でもあり、反対に被相続人の義務でもあるから、必ず相続させる必要があるのです。
相続人には、まず、配偶者が常になることができます(890条)。
 
さらに、この配偶者と同順位で、つぎの人が上から順になることが出来ます。この上から順というのは、先順位の人がいない場合に次順位の人に相続権が回って くることを意味し、例えば、先順位の人が相続放棄をしても、先順位の人が存在する以上、次順位の人には相続権は回ってきません。
 
1、子、またはその代襲者(民法887条)
2、直系尊属(889条1項)
3、兄弟姉妹、またはその代襲者(民法889条1項、2項)

 
 
ここで、子というのは、胎児も含まれます(民法886条)。
 
また、代襲者というのは、被相続人(亡くなった人)の死亡以前に、相続人となるべき人が死亡または排除・欠格となり相続権を失ったときに、その者に代わっ て相続人となる、その者の直系卑属のことをいいます。つまり、被相続人が死亡する1年前に、相続人となるはずであった被相続人の子がすでに死亡していた場 合、その相続人の子が相続するということです。被相続人からみれば、孫にあたる人が相続人となるということですね。
 
直系尊属というのは、父、母、祖父、祖母のことです。父、母など、被相続人により近い存続が相続することになります。
 
兄弟姉妹の代襲者ということは甥や姪です。
 
 
 
【具体例】
被相続人(死亡した人)には、妻、子供3人、父、母、妹がいた場合。
 ↓
妻と子供3人が相続人になる。
 
 
被相続人(死亡した人)には、妻、孫、父、母、妹がいた場合。
 ↓
妻と孫が相続人となる。
 
 
被相続人には、妻との間に子供はなく、父と母と妹がいた場合。
 ↓
妻と父・母が相続人になる。
 
 
被相続人には、妻との間に子供はなく、父・母も他界しており、妹がいた。
 ↓
妻と妹が相続人になる。
 
 
被相続人には、妻との間に子供はなく、父・母も他界しており、妹も死亡しており、妹には娘(姪)がいた場合。
 ↓
妻と姪が相続人になる。