相続を放棄すると撤回することはできません(民法919条)。
相続放棄をしたけれど、「やっぱり気が変わりました。相続します」とはいかないわけです。相続放棄は慎重に行う必要があります。
ところで、平成16年改正前は、文言が「撤回」ではなく「取消」とされていたため、若干解釈上の問題があり、「撤回」と改められました。
法律用語で、「撤回」と「取消」ではたいへん意味が異なってきます。取消とは、その行為時に行為そのものに瑕疵があるため、行為の効果を遡及的に消し去るもので、撤回はそのような瑕疵がないにもかかわらず、任意に将来に向かって行為の効果を否定するものをいいます。
したがって、相続放棄をしたときに、放棄の意思表示に何らかの問題があれば、取消しをすることによって、相続放棄がなかったことにすることはできるのです(民法919条2項)。その典型的な例としては、他の共同相続人に強迫され相続放棄をした場合があげられます。
また、条文上には明文で規定されていませんが、最判昭和40年05月27日(集民 第79号201頁)はつぎのように判示し、錯誤による無効の主張も認めています。
「相続放棄は家庭裁判所がその申述を受理することによりその効力を生ずるものであるが、その性質は私法上の財産法上の法律行為であるから、これにつき民法九五条の規定の適用があることは当然であり」
もっとも、たとえば、被相続人の借金が多く、めぼしい遺産がないと勘違いして相続放棄をしたところ、じつはプラス財産の方が多かったという場合には、「動機の錯誤」となり、無効の主張は認められにくいでしょう。
※動機の錯誤は、民法95条で無効主張できる「錯誤」にあたらないというのが、判例・実務の一般的理解となっています。
